薫る言葉

本や映画のことなど、思ったことを言葉で表せるように

村上春樹『騎士団長殺し』

村上春樹騎士団長殺し』を読んだ。

ここからはネタバレ的要素も含むので、もしこのブログを見ている物好きな人でこれから『騎士団長殺し』を読もうとしている人がいればこれ以上は読まないほうが良いかもしれない。

 

この物語は、妻に逃げられた孤独な画家が、高名な画家の住んでいた小田原の屋敷に暮らし始めるところから始まる。

屋根裏部屋に隠してあった絵を見つけたことから、白髪の謎の男や雑木林の中の穴との出会いなど、様々なことに徐々に巻き込まれていく。

 

もちろん村上春樹の作品で頻出する妻の不在や、井戸などが今回も顔を出しているが、自分はこの作品に村上春樹の新しい試みを感じた。もちろん、毎回の作品で彼は常に新しいことに挑戦しようとしているのだけれど、いくつか新しい部分が見られると感じた。

特に、画家の創作へと態度がそのまま作家の態度、そして創作するということへの示唆に富んだ言及だと感じた。

本当に素晴らしい作品は自分の中から知らぬ間に出てくるものであり、それは恐ろしいものですらある。そう言ってるように見えた。

 

一読しただけでは理解できない、解釈し切れない部分は相変わらず沢山あった。例えば、免色が秘めている恐ろしさとはなんなのか、白いスバル・フォレスターの男とは誰なのか。単純な悪とは考えられない不可解な部分が多い。

物語序盤の東への旅は、羊をめぐる冒険やダンスダンスダンス、終盤の冒険は世界の終わりとハードボイルドワンダーランドを思わせる。実はある種の集大成的作品なのではないかと感じた。地味で文章も硬くなったように思えるが、村上春樹の作品群においてとても重要な作品なのではないか。

 

なんとなくそんなことを思いながら、物語の世界を離れた。また後日、しっかりと分析してみたいと思う。